君が思い出になる前に…
「とんでもない!むずかしいけど、なんとなくわかってきた気がするわ。こんな話し、誰にも相談できないもんね…。元宮君と話せただけで気持ちが楽になった感じよ…」
彼女はうれしそうに言ってくれた。
「おれの方こそ加賀の知ってる話しを聞けて、少しずつだけど理解できてる気がする。本当、ありがとう」
心からそう思った。彼女はにっこり微笑んでくれた。
途中で止めた話しは気になるけど…。

「お邪魔しましたぁ」
愛想よくそう言って居間を通り過ぎる紀子。
「また来てくださいねぇ」
あ、母さんが帰ってきてる。
「あの、お、送ってきます…」
正直まだこの若い母さんに馴染めない。ついついよそよそしい言い方になってしまう。
馴染める日はくるのだろうか?
「いいよいいよ」
と、顔の前で手を振り紀子は遠慮したが、おれも一緒に玄関を出た。
ドアを閉めようと振り向くと、母さんと姉さんが並んで手を振っている。しかもありったけの笑顔を振りまいて。
それに気づいた紀子が、
「失礼します」
と、深くお辞儀をした。


紀子の家は歩いて10分くらいのところだったはず。わずかに記憶がある。
並んで歩くふたり。家を出てから一言も交わしていない。お互い考え込んでいるのは、分かっていた。
辺りはすっかり暗くなっていた。人通りも少ない。
「こんなに遅くなって怒られない?」
家に帰ってからの紀子が気になった。
< 42 / 200 >

この作品をシェア

pagetop