君が思い出になる前に…
「どうしたの?」
絵美が入ってきた。「ごめん、遅くに…」
大理石の置き時計を見たら8時を回っていた。
「全然平気よ!祐ちゃんがきてくれるなんて嬉しい!」
風呂上がりの紅潮した顔で、絵美が言った。
「いらっしゃい、絵美がいつもお世話になってます」
ジュースをテーブルに置きながら、お母さんが言った。
「ママ、元宮祐作君よ」
凄く嬉しそうな顔をしてる絵美。
「はじめまして」
立ち上がりお辞儀をした。
「お名前はかねがね聞いておりましたのよ。この子がしょっちゅう、元宮君元宮君って、話してるもんですから」
「ママぁ~!やめてよ!」
絵美が恥ずかしそうに言った。
「あら、ほんとの事じゃない。どうぞごゆっくり」
そう言って、お母さんが居間を出ていった。
「もう、ママったら~」
少し膨れっ面をして絵美が言った。

家では絵美もキャミと短パンか…。姉さんとおんなじだ。
平気なのかな?男の前でそんな格好。
って、なに余計な心配してるんだ?
誰にでも見せられる格好ではないと思う。
おれだから平気なんじゃないかなって、自分で納得した。
勢い込んできたものの、なんか気抜けしてしまった。
「今日は本当に楽しかったわね」
「う、うん」
これじゃ、さっきのテンションのままじゃないかよ。

「絵美、行かないで欲しいんだ…」
意を決して言った。「え?なに?」
絵美には聞こえなかったのか?
「行くなよ!ロンドンに」
「なんで?」
「ずっとそばにいて欲しいんだ!絵美がいなくなるなんて考えたくないんだ!」「…」
絵美は黙ってしまった。
「おれ、なんでこの世界に来たのか、解った気がするんだ…。15年前、ちょっとした誤解からおれたちの付き合いは終わってしまったけど、本当は違ってたんじゃないかと思うんだ…。絵美とずっといる事がおれの使命なんじゃないか、その為にこの世界に飛ばされてきたんじゃないかって思ったんだ…。勝手な推測かもしれない。けど、それ以外にこの世界にきた理由が見当たらないんだ。だから…」
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