こじらせカップルに愛の手を
佐伯に連れられて、ホテルの駐車場までくると、見覚えのある黒のRV車が止まっていた。

どうやら、佐伯は車で仙台まで来たらしい。
でも、何でこんなこと?
本当に私を奪いに来てくれたの?
いや、早まっちゃいけない。
だって、彼には橋口さんがいるんだから。

「乗って」

「う、うん…」

言われるがまま助手席に乗り込むと、佐伯は私を見つめてこう言った。

「悪いけど…。もう、逃がしてやんないからな」

「え…」

そして、こう続けた。

「おまえが山下を好きなのかと思って身を引いてやったけど、違うならもう遠慮しない。見合いなんかさせるくらいなら、俺がおまえを奪ってやる」

「えっと…。あのさ、佐伯」

「なに?」

「なんだか、さっきから、佐伯が私のことを好きみたいに聞こえるんだけど? 気のせいかな」

恐る恐る尋ねると、佐伯はため息をつきながらこう答えた。

「おまえな…。逆にこれで俺がおまえを好きじゃなかったら頭おかしい奴だろ? こんなとこまで追いかけてきて、見合いまでぶち壊してんだぞ?」

「でも…佐伯は橋口さんと付き合ってるじゃない」

「橋口? まさか。付き合ってないよ」

佐伯はサラッと否定した。
嘘。

「じゃあ、何で打ち上げの後、二人でホテルになんて行ったのよ」

「何でそんなこと知ってんの?」

逆に聞き返えされて、ドキッとする。
気になって跡をつけたなんて言いたくない。

「タクシーから見かけた人がいるから」

咄嗟にそう答えると、佐伯は真剣な表情で私の目を見つめる。

「あの日は色々と事情があったんだよ。でも、彼女とはそういうんじゃない。何もないから」

「事情って…。そんなんで納得できる訳ないでしょ! それに仕事の後だってふたりでコソコソと会ったりなんかして! 私がどれだけ傷ついたと思ってるのよ! こっちはヤケになってお見合いまでしちゃったんだからね!」

ハッとして口に手を当てた。

やだ、私…ついムキになって。

彼女でもなければ、告白さえもしてない相手に何言っちゃってるんだろう。

真っ赤になって俯いていると、佐伯がフッと笑った。

「何だよ…ちゃんと俺達、両想いなんじゃん」

佐伯がそう呟きながら、ギュッと私を抱きしめた。

「佐伯…」

「美海。愛してるからな」

耳元で甘く囁かれ、佐伯が顔を寄せてきた。

胸がキュンと熱くなり、思わず流されそうになる。

いやいや、ダメでしょ!
私は閉じかけた目をパッと開いた。

「誤魔化さないで!まだ、橋口さんの話、終わってない」

佐伯の胸を押し返した。

「それはちゃんと後で説明するよ。けど誓って何もない。何かあったら、美海を奪いになんて来れないだろ?」

「そうかもしれないけど…ちゃんと」

「ほら、キスできないから、もう黙れ」

「ちょと… 待っ」

佐伯の唇がそっと触れた。

唇から伝わる甘い刺激に、体中が熱を持ってとろけそうになる。

佐伯は私の唇を優しく啄みながら、何度も何度も角度を変えて、ゆっくりと舌を送り込んだ。

「ん…」

思わず声が漏れた。
キスでこんなに切なくなったのは初めてだ。

涙が出るほど甘くて優しいキスだった。




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