Holly × Adult

大家さんの言葉に眞木さんはわずかに目を見開く


初めて聞いた様子の彼を見てクスリと笑うと、大家さんはドア前の通路に立てかけてあったほうきを掴み


「じゃあね」

と片手を上げて階段を降りていった



階段の角を曲がった背中は見えなくなり

だんだんんと、足音が遠ざかってゆく


再び二人きりになりなんと声をかけようか迷う私に眞木さんは振り返る


「このあと時間は?」


「.....時間?」


「夕飯。大家さんの言葉じゃないけど、食べたいものでもあれば奢る」


「えっ?いやいやいや、あの」


朝の掃除なんて大したことじゃない


見返りを求めてやったわけじゃないから、まるで報酬のように奢ってもらうのは気がひける


私がブンブンと首を振ると眞木さんは初めて真面目な顔を崩し

「どうせ食べに出ようか家で済ませようか迷ってたから。君がいれば店に行く理由もできるし」

そう言ってわずかに微笑んだ


自分よりも頭一つ以上背の高い顔を見上げながらドキリとする


こんなにクールな眞木さんが、私を見て少しだけ笑ってる.....

顔が赤くなってたらどうしよう.....!


この時心のどこかで、ここで頷けばもう少し一緒にいられると

もっと彼のことを知れるかもしれないと思った自分がいた


「あのっ、本当にいいんですか?」

「いいよ。なんて、女子高生をしつこく誘う怪しいおじさんみたいだな」


冗談めかして自嘲気味に言う姿に、私は思わずクスッと笑う


「ふっ、あははっ。あのっ、それ冗談で言ってますか?私大学生なんですけど。ってこれ、前も言いました」

「あ.....ごめん」


はたとミスに気が付いき短く謝る眞木さんを見て、私は笑うのをやめる


こんなかっこいい大人が、女子高生を誘うおじさんなわけないのに

私を和ませるために言ってくれたのかな


「お店.....何のお店ですか?」

くしゃりと自分の髪を弄っていた彼は私の言葉に口を曲げて考える


「ん.....何がいいかな」


視線を浮かせる様子にてっきり考えを巡らせているのだと思ったけれど


「まぁ行きながら考える。とりあえず車乗って」


そう言って歩き出したので、私は戸惑いながらも彼の背中を追った
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