甘え下手を治すには溺愛を
21.千紗:仕事

 何も連絡がなく2日が過ぎた。
 怒涛の勢いだった出会いと次の日。
 そこからパタリと何もない。

 気まぐれ…なんだろうなぁ。
 会ってない時まで裕に振り回されてる。

「小林さん。ちょっと。」

 ぼんやりしていた千紗はハッと意識を引き戻すと課長の元へと急ぐ。

 職場で課長に憧れている人は多い。
 確か32歳。
 この歳で課長なのはすごいらしい。

 仕事は出来るし、優しい。
 憧れるの分かる気がする。

「小林さん。
 この資料の作成を頼みたいんだが。」

「え…でもこれは松本さんの方が……。」

「小林さんに頼みたいんだよ。」

「…………はい。かしこまりました。」

 たまに課長は仕事で全く関わりがない私に仕事を依頼する。
 頼りにされているようで嬉しいんだけど、この仕事は本来なら課長と同じ仕事をしている松本さんの仕事なのに……。



「千紗ちゃん。
 見たよ〜。また課長に頼まれてたね。」

 お昼休みに亜紀ちゃんにつっこまれる。
 課長と話すといつもそう。

「仕事を頼まれるのはいいんだけど……。
 松本さんの仕事を取っちゃってるみたいで。」

 なんとなく申し訳ないんだよね。

「何、言ってんの。
 千紗ちゃん仕事はできるもん。
 普段はぽやっとしてるから意外だけどね。」

 仕事は……かぁ。

 こういう時に言い返せないっていうか、仕事はって何よー他もしっかりしてるよ!とか言えたらいいのにって思ってしまう。

 裕なら……裕とならどうなんだろう。

「小林さん。」

「は、はいっ!」

 急に話しかけられてドキンとする。
 声のする方を見れば課長が立っていた。

「さっきの資料、助かったよ。
 また今度お礼させてね。」

 颯爽と去っていく課長。
 亜紀ちゃんの視線が痛い。

「課長は確実に千紗ちゃん狙ってるね。」

「えぇ!だってご結婚されてるよね?」

「そんなの関係ないんじゃない?
 千紗ちゃんって子どもだよねー。」

 う…。
 そういうものなのかな。

 なんとなく釈然としないまま、千紗は味わうことも忘れていたご飯を口に運んで飲み込んだ。

 裕の作ってくれたご飯。
 おいしかったなぁ。
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