彼がメガネを外したら…。



「……これも、一連の楢崎氏のものだと思うけど……。そういえば、楢崎氏の史料集成に似た内容のものがあったような……。望月さん、史料集成の方を調べてみてくれる?」


「はい」


このときに限らず、絵里花は史明の要求にはどんなことでも、文句も言わず身を粉にするように動いて応えた。まるで、自分の叶わない片想いを昇華するかのように……。


そんな毎日を過ごしているうちに、絵里花は改めて史明の研究者としての能力の高さに気づかされる。
その能力に見合う居場所は、こんな地方の史料館などではないはずだ。

でも、史明が国立の古文書館へ行ってしまうと、もう二度とこんなふうに二人で一つの作業をすることもなくなる。


その現実に目を向けると、絵里花の胸がチクンと痛んだ。どうしようもなく切なくなって、いつしか涙がその目に浮かぶ。

絵里花は史料集成の膨大なページを、1ページずつ繰りながら、堪え切れなくなって目を閉じた。唇を引き結んで、その想いを涙とともにぐっと抑え込んだ。


今はただ、史明のために――。
どんなことでも、愛しい人の役に立ちたかった。



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