彼がメガネを外したら…。
「あれは、収集された古文書を読んで表題を付けて、目録を作って整理する作業をしています」
――私のことを、『アレ』だとう…?!
絵里花は虫喰いだらけの折紙(古文書の一形態)をそっと開きながら、その背中に不穏な空気を漂わせた。
「わぁ!古文書ですか。私もやってみていいですか?」
清楚で可愛らしい見た目によらず、案外積極的みたいだ。
「いや、あんな虫の糞だらけの古文書なんて、触らない方がいいですよ」
――私は毎日、その虫の糞と格闘してるんですけど…!?
絵里花はこれが仕事なのだから当然なことだと分かっているのに、史明がやたらと女子大生に気さくで親切なことが癪に触った。
「さらに上の階には、仏像や武具なども収蔵してますが、見てみますか?」
「ええ?!いいんですか?是非!!」
そんな会話をしながら、二人は楽しそうに連れだって姿を消した。
それから、しばらくして戻って来た史明に、絵里花は我慢ができなくなって毒を吐いた。
「岩城さんって、若い子が好みなんですね。女の子にあんなに馴れ馴れしいところ、初めて見ました」
いきなり降りかかってきたトゲのある言葉に、史明はビン底メガネの向こうにある目を絵里花へと向けた。