カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


 玄関口で夏彦と話す客人。短髪の似合う爽やかな雰囲気を持っている。キラリと光るピアスと眼鏡が素敵で恰好いい。


 という分析はどうでもよくて。



「あ……あ……」



 何から言えばいいか迷っていたら、夏彦さんは信じられない一言を口に出した。



「屋島くんは初めて会うと思う。彼女が最近来た高瀬麗さん。そのうち正社員として働いてもらう。そしてこちらが、調理を担当してもらっているシェフの屋島樹くん。そうそう、彼と俺以外はみんなアルバイト」



 普通ににこやかに自己紹介する夏彦さん。


 あれだけ会えなかった屋島さんが目の前にいる。ずっと挨拶したかった人が目の前にいるのに、わたしはノーメイク、スウェット姿。乱れた濡れた髪。



「初めまして?」

「どうも」



 なぜ疑問形になっちゃったの。でも初めましての挨拶も違う気がして、だから何を言えばいいのかわからない。

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