カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。

 今度こそ、夏彦さんはわたしの手を逃れて部屋に入ってしまった。



「今……」



 舞い上がっていたんだろうか。
 違う。

 よくわからなくて、緊張していた?
 そうかも。

 そんなふうに思ったことがなかったから、意外?
 よく、わからないだけ。



『気にしないから』



 それはつまり、女として見ていないと言っているようなもの。


 わたし、魅力ない?
 思ってから、頭をぶんぶん横に振る。何を考えているのだ、と自分を恥じた。



「まるで……夏彦さんのことが……」



 後の言葉が言えず、麗はソファに座り込む。一気にメロンソーダを飲み干して、一息つく。



「仕事仲間として」



 夏彦さんは気遣っているだけ。特別な感情はない。
 当たり前のことなのに、どうしてか素直に喜べない。なぜか悲しくて辛くなってきた。



「寝よう……」



 夜の十時を過ぎていた。


 夏彦さんがいるんだから、寝坊するわけにはいかない。朝になったらお礼もちゃんと言わなきゃ。


 考えながら、わたしは寝室に足を踏み入れた。

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