カップほどの小さな幸せだとしても、店長が隣に居てくれるなら。


 鏡は見てないけど、多分お化けみたいな姿になってるんだろうな。通行人がみんな振り返って見てるもん。


 会社を出て、電車に乗ったのは覚えてる。でも、ここはどこ? 見覚えがない。


 カウベルの音がして、わたしはやっと前を見られた。いつの間にか座り込んでいたみたい。



「お嬢さん?」

「あ、はい」



 力なく答えると、サラリーマン風の男性は苦笑いした。



「ちょっと休んでいったらどう? そこにカフェみたいな店あるから、珈琲でも飲むといいよ」



 男性はそう言って行ってしまった。


 今は昼時。スーツ姿の人々は、ほとんどが営業だろう。学生なんて見かけない。この道には人気がなく寂しい。


 後で駅がどこにあるか確認しなきゃ。でも、こんな所にカフェがあるなんて知らなかった。
 新しい発見はちょっと嬉しいかも。

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