最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「私は大丈夫だと思う」

「どうしてそう言えるの」

「久人さんの愛情が足りないと思ったら、もっとかわいがってくださいってはっきり言うし、それでもダメなら離婚する」

「あのね」

「でもそんなことにはならないと思うの。あの人は、言えば返してくれる人だと思う。言わない限りは好き放題するっていうだけで」

「なめられたら終わりよ?」

「そんなに心配しなくて平気だって。結納の席には千晴さんもいるでしょ? そこでお話ししてみて。おもしろい人だよ。あっ、もう出なきゃ」

「行ってらっしゃい。戸締りしておくわ」

「ありがと」


千晴さんの住まいは、すぐ近くだ。料理上手な彼女は、おかずを持ってきてくれたり食事に誘い出してくれたり、忙しい中でなにくれと私を気にしてくれる。

ため息交じりの千晴さんに見送られ、玄関を出た。

久人さんとの再会から三か月あまり。春が近づく陽気の中、柔らかな日差しを浴びながら駅まで走った。




「桃、こっち」


待ち合わせた駅前のカフェで、息を切らしてきょろきょろする私を、奥のほうの席から久人さんが呼んだ。日曜日なのに仕事帰りの彼は、スーツだ。


「ごめんなさい! 忙しいのに、お待たせして…」

「いいよ、電車大丈夫だった?」

「それがもう、三十分くらい閉じ込められてしまって」


信号機の故障とかで、緊急停止してなかなか復旧しなかったのだ。立ちっぱなしで足も痛いし、車内の空気もどんどん悪くなるしでくたくただ。

だけど早めに出てきたおかげで、待たせたのは十五分ほどで済んだはず。

久人さんと会うようになって驚いた。多忙な人というのは、前の予定が押したりして、待ち合わせの時刻に現れることなんてないとばかり思っていたのに。

まったく逆だった。多忙だからこそ、ひとつがずれたら後に響く。だから各々の用事を時間厳守でこなしていくのが一番効率がいいらしい。

私との待ち合わせに、アクシデント以外の理由で彼が遅れたことはない。
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