最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「俺、最悪な奴だよ」

「私の夫です。そんな人が、そんなに最悪なわけありません」


久人さんの震えが、だんだんとおさまってくる。彼が頭を私の肩に載せた。私は、すっきりした黒い髪をなでた。

力ない苦笑が聞こえる。


「すごい自信だね…」


私はきっぱりと返事をした。


「これが、愛です」


思わずといった感じに、久人さんがぱっと顔を上げ、私たちは正面から顔を見合わせるはめになった。

ぽかんとしていた彼の表情が、微笑みに変わる。

抱き合ってキスをした。お互いの身体に、しっかりと腕を回して、唇を重ねて、髪をなでて、背中を抱き寄せる。

信じてね、久人さん。

あなたは愛されています。

しばらく、私たちはぎゅっと抱き合っていた。私の存在を確かめるみたいに、頭や首や背中を、ひっきりなしになでていた久人さんの手が、あるとき止まった。

考え事でもしているような、変な無言の間。


「あのさ、桃」

「はい」

「あの、もしよければなんだけど、嫌なら嫌って言ってくれればいいんだけど」


はあ、と抱きしめられたまま、私は答えた。


「このまま抱いていい?」


一瞬、ちょっとよく意味がわからなかった。

久人さんて直球だなあ。私の経験則では、こういうストレートさは自信の表れで、ここでNOと言われたところで、自分が全否定されたわけじゃない、と正しく受け止めることのできる人が発揮するものなんだけれど。

どうしてこれが言えて、ご両親の愛を信じられないのか。

これが樹生さんも言っていた"バランス"の悪さか。

返事をするのも忘れて考えにふける私に、久人さんは今度は弁明を始めた。


「俺もけっこう我慢したから、限界っていうか、いや、俺の限界っていうと語弊があるんだけど、どっちかっていったら、変わったのは桃のほうでね」

「私?」
< 123 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop