最愛婚―私、すてきな旦那さまに出会いました
「そう、ですね…」


私は握りしめていた、新品のフォークを見下ろした。ぜいたくな十人用のセット。奥にしまっておくぶんと、普段使いできる場所に並べておく数の配分を、ずっと考えていたのだ。

久人さんが、私の顔を覗き込んだ。


「なにか、べつの希望があるなら言いな」

「あの…」


できたら…。

ああ、でも、久人さんは今すぐにでも食べたいですよね…。

ですが、もしよかったら…。

心の中でごにょごにょ迷っていたら、「桃ー」と両手で顔を挟まれた。


「俺は、晩メシの話くらいで機嫌を損ねる甲斐性なしに見える?」

「い、いえ」

「じゃあ言いなよ、聞く器はあるからさ」

「引っ越して最初の食事は、このキッチンで作りたいなと思ってたんです」


私の言い出すことなんて、だいたい読めていたんだろう、久人さんはじっと私を見て、優しく口の端を上げた。


「じゃあ、作ろう」

「片づけが…」

「一度中断したらいいよ。散らかった部屋で食べるのも、特別感あるじゃない」

「買い出しもこれからで…」

「あ、それで思い出した」


彼がぱちんと指を慣らし、ちょっときょろきょろしてから、カウンターに置いてあった財布を取ってきた。


「これ、桃のカード。家計用の口座を作ったから、家の買い物はこれでしてね」

「え…」

「あ、カード会社とか、こだわりあった? 勝手に俺の家族会員にしちゃった」


クレジットカードを差し出し、ごめん、と焦っている。
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