秘書と野獣
決断の時


「___……、………ぃ、おいっ、ウサギっ!!」


「____っ、は、はいィっ!!!」


突如怒号のように響き渡った声に、これまた自分でも驚くほど素っ頓狂な声が出てしまった。おまけに椅子をひっくり返すほどの勢いで立ち上がったため、声の主は心底呆れたようにこちらを見下ろしている。

「あ…す、すみません! あのっ…」
「はぁ…お前やっぱり最近変だぞ。何かあったのか?」
「えっ? い、いえ、何もありません」
「そうは言っても明らかにおかしいだろ? らしくないミスはするしぼーっとしてることが増えたし。現に今だって何度呼んでも気付かなかっただろうが」
「うっ…それは…申し訳、ありません…」

身に覚えがありすぎて謝罪以外に出せる言葉が見当たらない。上司を支えるべき立場にいる人間が、こんな初歩的なことで迷惑をかけるだなんて論外だ。

「何か悩んでることがあるなら相談にのるぞ? 真面目なお前がそんなになるくらいだ。吐き出して楽になるならいつでも俺を頼れ」

だというのに、怒るどころか本気で心配してくれている姿に不覚にも泣きそうになった。けれど、溢れ出しそうになるそれをグッと呑み込む。

「…ありがとうございます。でも本当に何でもありませんから。敢えてあげるとすれば最近海外ドラマに嵌まっていて。DVDをたくさん借りて夜な夜な見てるんです。だからそれでちょっと寝不足なのかもしれません。でもこうやって仕事に支障を来すなんて社会人失格ですね。本当に申し訳ありません。今後このようなことがないように心を入れ替えて頑張ります」

「……」

うっ…その全てを見透かしたような目はなんなんですか。
上手に嘘がつけるようなタイプの人間じゃないのは重々自覚してるけど、ここは盛大にスルーしてやってほしい。いくら信頼を寄せる上司だからって、誰しも言えないことの一つや二つはあるんだから。
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