秘書と野獣


ようやく理解できたのか、みるみるうちに莉緒の目が見開かれていく。
期待以上のリアクションで思わず笑いたくなったけれど、その意志に反して今の私はきっと泣き笑いの顔になっているんだろう。

「…うそ、でしょう…?」
「嘘じゃないよ。この前直接言われたんだから。結婚したい女がようやく見つかった。だから近いうちに結婚するって。面と向かって報告受けたの」

「______」

それはまさに絶句、だった。

完全に言葉を失ってしまった莉緒の頭をポンポンと撫でる。
小さい頃から落ち込んだときにはいつだってこうしてきた。大人になった今もそれは変わらない。

これから先も、ずっと。


「う、そだよ…そんなこと、あるはずが…」

「ありがとうね、莉緒。莉緒が私の幸せを願ってくれてるのは本当に嬉しい。でもね、私と進藤さんは赤い糸では繋がってなかった。そういう運命だったの」
「ちがうっ…だって、だって、進藤さんはっ…!」
「失恋したことは潔く認めるよ。でもね、進藤さんがやっと自分の幸せを見つけてくれたことが嬉しくもあるの。これも嘘偽りない本音だよ」
「……っ」

ぶんぶんと横に振り続ける莉緒の頭ごとそっと引き寄せた。

「私は幸せだよ。進藤さんに出逢えたことでこうして莉緒達を立派に独り立ちさせられて。進藤さんに出逢えて良かったって心の底から思える。だから今度は私達が進藤さんの幸せを祝う番だよ?」
「う~~っ……ちが、うもんっ…ぜったいに、ちがうもんっ…!」
「わかったわかった。ほんとにありがとね」
「ちがうんだからぁ゛~~~っ…!」



あぁ、幸せだなぁ。

私には決して手に入れることはできなかったものもあるけれど、それと同時にこうして絶対に失うことのないかけがえのない絆がある。
それだけでも充分に幸せなことなんだ。


本当に違わないんだよ、莉緒。
もしも社長と私の運命の糸がどこかで交錯するのならば、今日までの長い間にいくらでもそのきっかけはあったはずなんだから。
でもそれが絡み合うことは一度だってなかった。

それが現実なのだ。




出会ってからもうすぐ12年。
その間、私を一人の女として意識してもらえたことなど、ただの一度もなかったのだから。



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