秘書と野獣
ウサギ、捕獲される


「ちょっ…ちょっと…! 待って、待ってください!!」


「うるせーぞ。黙ってなけりゃ舌噛むぞ」
「だって! ちょっ、待っ____&#%$っ?!!!」

ガクンと揺れた拍子に思いっきり舌に激痛が走って目の前に星が飛ぶ。

「ほら見ろ。だから言っただろうが。いいからお前は黙ってろ」

「 _____ 」

涙目で口を押さえる私を見上げながら愉快そうに笑い声を上げている男性を前に、私の頭の中は未だ状況を把握できていない。



なんで?
どうして?



一体何がどうしてこーなった?!



「お帰りなさいませ、進藤様」
「ただいま戻りました。どうもお手数おかけしまして」
「いえいえ。どうぞごゆっくりとお休みください」

そう言ってニッコリと微笑みかけてきたのは、紛うことなくついさっき挨拶をしたばかりのあのコンシェルジュの男性。

…のマボロシ。

成人男性にまるで米俵のように女が担がれているこの状況に驚く素振りすら皆無で、それどころかむしろ温かな眼差しを向けられているのは気のせいだろうか。
それとも夢だから何でもありなんだろうか。
いや、だったら尚更こんな悪夢はさっさと覚めて欲しい。

そうこうしているうちに米俵よろしく私の体は浮遊したままエレベーターの中へと吸い込まれていく。これまで必要に迫られてここに来た時、どんなに言われようとも絶対に足を踏み入れようとしなかった空間にいとも簡単に引き込まれてしまった。
基内にはモーター音だけが響き渡り、それが逆に恐ろしかった。

恐る恐るチラ見した横顔はやはり相変わらず楽しげな笑みを浮かべている。
…けれど、とてもじゃないけれど本心からの笑顔には見えず、この先に何が待っているのかと末恐ろしさに身の毛がよだった。


もはや今の私は死刑台へと上がっていく死刑囚同然だ。


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