恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
「ナナコ、何食べる?」と、駅に向かいながら私に聞く。
駅までは歩いて20分位かかる。

私はリュウの強引な態度に腹が立っていたので、返事をしないで黙々と歩く。

リュウは気にしていない様子で私の顔を覗き、
「夕飯は奢るよ。
すきやきと、ステーキ、どっちがいいかな?」

私は思わず、リュウを見上げる。

余裕の無い生活を送っている私にとって、そのお誘いはすごく嬉しい。
元来、食いしん坊なのだ。

私はつい、
「…美味しいほう」と呟いてしまう。

リュウは笑って
「俺も、美味しものがすきだよ。
駅前のビルに入ってたすき焼き屋ってまだあるかな?」
ときっと、東京に本店がある老舗のお店の事だ。

「3年前にはまだあったけど、…どうかな?」と私は首を傾げる。

「とりあえず、行ってみようか?」とニッコリ微笑みかけられ、頷いてしまった。

怒っていたはずなのに、
食べ物に釣られて、丸め込まれたようにも思って、ちょっと凹む。

そして、
「これから俺はナナコをまるまる太らせるんだ」と決心したように言って、
前を向いて歩くリュウに私は少し驚く。

いや…
そんな事、本当にしなくても、誰にもわからないんだから、
私自身が気をつければいいのじゃないかな

「リュウ、私もきちんと気をつけて生活するから、
あまりあなたが頑張らなくてもいいと思うんですが……」と言うと、

「そんな訳にはいかないだろ、看護部長に任されたんだ。
…俺は、あの病院で、笑ったり、泣いたりしながら、
前向きに仕事をするナナコがもう一度見たいんだよ
…昔みたいに」

と、ゆっくり歩きながら話す。
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