恋人未満のルームメイト(大きな河の流れるまちで。リメイク版)
私は、その時思い出していた。
非常階段で、リュウと一緒にいたときのことを…
亡くなった患者さんの家族になんて言葉をかけたらいいのか、
悩む私にリュウは一緒に考えたのだ。

そして、さっきの言葉を、患者さんの家族にかける事にしたのだった。

『亡くなった家族のためにたくさん泣いてください。
そして、それから、自分のために生きていってください。』

私も、ずっと、その言葉を、使ってきたのだ。

忘れていた。

私は、この2年間自分の悲しみで、精一杯で、すっかり、忘れていた。

私は涙を堪え、処置を続ける。
今は、目の前にいる患者さんに向き合おう。
頑張りましたね。ゆっくり休んでください。と話しかけながら、処置を行った。


帰り道、タクシーの中でリュウに

「患者さんが亡くなった時に、家族にかける言葉。リュウも使ってたんだ。」と聞くと

「ナナコと考えたヤツでしょ。ずっと使ってきたよ。」と笑う。そして、

「さっきの子、少しずつ、自分のために生きられるといいな」と言った。
私は
「そうね。『お父さんっこ』だったって、さっきの看護師さんに聞いた」と返事をした。


しばらくお互い黙ったままで見つめ合う。

「…ナナコも少しずつ、自分のために生きて欲しいな」

とリュウはポツリと言う。

私はリュウの瞳をみつめたまま、そっと頷いた
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