あの日失った想い
「七瀬くん?どうしたの?そんなに慌てて」



そう。七瀬くんは明らかに慌てていた。息も切れてるし、汗も掻いている。



「いや、今朝の郁麻のこと…怒ってるんじゃないかって、心配したんだ」


「……」



そこまで私のことを心配してくれていたんだ。



私は七瀬くんのその優しさに言葉を失ってしまった。




「郁麻はさ、無口で無表情だから取っ付きにくいとこもあるけどさ、根はいい奴だから嫌いにならねぇでほしい」




七瀬くんの真剣な瞳が私の目を捉えて離さない。いや、離すことが出来ないのだ。





「嫌いに…嫌いになるはずないよ」





そう。たとえ郁麻くんが私を忘れていたとしても、彼は大事な友達だ。



私は少しだけ口角を上げた。



「…あぁ、さんきゅ!」



「ふふっ」



私はまだ少し息切れしている七瀬くんが何故か分からないけど無性に可笑しかった。


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