王様と黒猫
整った身なりで口髭を蓄えたお爺さんが訪ねて来たのは、その日の午前だった。

その人の持ってきた一通の手紙。

それは、公爵家として名を連ねているが細々と暮らしていた我が家に、大騒動を巻き起こした。




午前中はいつも、口うるさい家庭教師に令嬢としての作法や教養を叩き込まれている。

私はその時間が窮屈でたまらない。同じ叩き込まれるのなら、弟のように中庭で剣術でも習っていたほうが数倍楽しいのに。

公爵令嬢だなんていったって、うちはこれと言った名士も遥か昔に一人出ただけで、貴族院での力も持ってはいない。今すぐ爵位を返還して山奥で農業を始めても、きっと誰も困らないし気が付かないだろう。


家庭教師の講義を上の空で聞きながらもうすぐ昼食だな、なんて考えている所へお父様が飛び込んできた。


「――――シオン! お前、何をしたんだ!!」


血相を変えて私を怒鳴りつけるお父様の手には、青い封筒が握られていた。

早口で何があったのか説明した後に渡された封筒は上質の青い紙で、封印に仰々しい刻印が押されていた。開封はまだされていなかったが、表に私の名前が綺麗な飾り文字で綴られている。


「どなたからの使いだったのですか? それにしても、差出人の名前を書かないなんて、失礼だわ」


名前は宛名の私のものしかない。手の込んだいたずらみたいな手紙。何処からの使いかわからないお爺さんが持ってきた不審な手紙に、ちょっとむっとして悪態を付くと、お父様は震える指で封筒の刻印を指した。

その刻印は金色で、王家の紋章が押されていた。


――――王家の紋章?!




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