王様と黒猫
下げている頭の上から降ってきたその言葉が、あまりにも意外だったので、私も謝罪を止めてしまった。よりによって、『陛下』と言おうとしてその最初の一文字で……


ああ、本当に私はもう、家には帰れないかもしれない。


しかし陛下は私が出した素っとん狂な声に、おかしそうにクツクツと笑っている。そしてまだ深々と下げている私の頭を、ぽんぽんと軽く叩くと言った。


「この間の事は別に怒ってもいないし気にしてもいない。今日呼んだのはお前にまた逢いたかったからだ。だから、顔を上げてくれ、シオン」


その恐れ多い言葉にゆっくりと顔を上げると、上げた顔に黒い塊が飛びついてきた。にぎゃー、と鳴き声を上げながら顔に張り付いたそれを慌てて引き離すと、それはあの日助けた黒猫。

確か手紙で陛下が私と同じ名前を付けたという。


「ははは! シオンも、シオンが気に入ったか!」


陛下はそんな私と黒猫を見て、苦しそうにお腹を抱えながらまた笑っていた。


金色の髪にブルーサファイアのような瞳を持つアレックス陛下は、こちらが驚いてしまうくらい気さくでよく笑う。

その笑顔はまるで子どものようで、この人が本当にこの国を治めているのかと思うと不思議でならない。


ひとしきり笑うと陛下は言った。


「俺はお前が気に入った。だから、お前の事をもっと知りたい」

「そ、それは、私に自己紹介をしろ、と言うことですか?」


こんなじゃじゃ馬を育ててしまった両親や、生活環境を知りたいという事だろうか。そしてそんなどうしようもない公爵家からは、爵位を剥奪でもさせるつもりなのだろうか。

陛下の青い瞳からは、その真意は読み取れないが、自動的に悪い方向へ考えが進んでいってしまう。




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