身代わりペット
とりあえずひと段落。と、私は辺りをキョロキョロする。

「……あ、国枝さんっ!」

私は他のお客さんに料理を運び終えた国枝さん(仲良くなった店員さん)を呼び止めた。

国枝さんは私の顔を見ると、うんうんと頷き、厨房へと早歩きで入って行った。

「なに?」

千歳が一連の流れを見て、眉を寄せている。

「うん、ちょっとね……」

私は多くを語らず、国枝さんの到着を待った。

「ハッピバースデー・トゥー・ユー♪ハッピバースデー・トゥー・ユー♪」

と、歌いながら厨房から出て来た国枝さんがこちらへ向かって来る。

手には、頼んでおいた4号サイズのバースデーケーキが。

「え?なに?」

千歳が目を丸くして私と国枝さんを交互に見る。

「ハッピバースデー・ディア『千歳』さーん……ハッピバースデー・トゥー・ユー」

千歳の目の前に、ケーキが置かれる。

「わっ……」

千歳が少し驚いた声を上げた。

ケーキの上には「2」と「7」のロウソクに火が灯っていて、チョコレートのネームプレートにもちゃんと『千歳』と書いてある。

間違っていない事を確認し、安堵した私はロウソクの火を消すように千歳を促す。

フ~っと息を吹きかけられた27のロウソクから火が消え、何事かと見ていた周りのお客さんからパチパチと拍手が鳴った。

千歳が少し照れながらそのお客さん達に軽く会釈をする。

「千歳、おめでとう!あ、国枝さんもありがとうございました!」

国枝さんにお辞儀をしてお礼を言うと、「いえいえ~」と笑いながら厨房へと戻って行った。

「……ビックリした。急に何かと思ったわよ」

千歳がケーキに飾られている苺を一つ摘まみ上げて口に放り込んだ。

「うん。美味しい。これ、全部食べてもいいの?」

「もちろん。千歳の好きにして」

「ありがとう」

普段クールな千歳だけど、甘い物に目がない。

この位の大きさ(直径12cm)のケーキなんてあっと言う間に平らげてしまう。

それを分かっていて、ケーキをサプライズで用意した。

普段あまり表情を崩さない千歳がニコニコしながらケーキを食べていると、こっちまで嬉しい気持ちになる。

(喜んでくれたみたいで良かった)

やり切った感と安堵感で、私もお腹が空いて来た。
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