身代わりペット
「今日はルイの命日なんだ」

「えっ!?」

ソファーに座りワイングラスを手渡しながら課長が言った。

ルイちゃんの命日!?

そんなの一言も聞いてないよ!?

「そ、そうなんですかっ!?」

「うん」

「なんで言ってくれなかったんですか!!」

「あれ?言ってなかったか?」

「聞いてません!」

「それはすまなかった」

私がちょっと怒り気味に言ってるのに、課長はなんでかニコニコしながらグラスにワインを注いでいる。

「課長、私ちょっと怒ってるんですけど。なにニヤニヤしてるんですか?」

大事な事を教えてくれなかった事も、それをニコニコしながら謝る事も、なんだかちょっとイラっとして、課長にそう言った。

「いや、本当にそれはすまなかったよ。でも、俺も今日になるまで頭から抜けてたんだ」

「え?」

こんな大事な事、なんで忘れる?

ペットロスにまでなったルイちゃんの事だよ?

私の言いたい事を私の表情で感じ取ったのか、課長が続けて話してくれた。

「中条が家に来てしばらく経つが、毎日が楽しいんだ。家に帰って来ると『おかえりなさい』と言ってくれる人がいて、何てことない事で喧嘩したり、毎日温かい手料理を食べたり……。ルイの事を考える時間も、落ち込む日も少なくなって来た。本当に感謝しているんだ。ありがとう」

課長が私に向かって頭を下げた。

「課長……」

そんな事を言われたら、怒れないじゃないか。

「課長、顔を上げて下さい。もう怒ってませんから」

課長が顔を上げ、すまなかった、ともう一度だけ謝ってくれた。
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