さよなら流れ星
その声が、伏せられた瞳が、口もとに張り付いた笑顔が。
パキパキと、私の心を凍らせる。
「…うん、わかった!」
唇の筋肉をなんとか動かして、三日月型に歪める。
あたしは今、笑えているだろうか。
お父さんとは目を合わせないまま椅子から降り、リビングを出る。
伸びた廊下の先にある階段の上は、薄暗く埃が舞っていた。
ギシ、と、足をかけた一段目が軋む。
そのまま一歩一歩、ゆっくりと時間をかけて登っていく。
自分の部屋の真正面。
固く閉ざされたその扉。
控えめにノックして、口角を上げて、
自分が出しうる限りの明るい声を出そうと、息を吸い込む。
「お兄ちゃん、お父さんがお寿司買ってきてくれたよ。一緒に食べない?」
やっぱり、いつもと同じだ。
返ってくるのは沈黙だけ。
耳を澄ませても扉の向こう側からは何も聞こえてこない。まるでそこには誰もいないかのように。
ズルズルと、扉の前にしゃがみこむ。
体育座りをして、脚の間から覗く廊下の木目をぼんやりと見つめた。
あたしの声は、彼に届いてないのだろうか。
あたしがなにを言っても、彼の心には響かないのだろうか。
歪み始めた視界に慌てて目をこすると、鼻水をすすって立ち上がった。