Innocent -イノセント-


「ソルティードックが飲みたい」


「ない」


「バーなのに?」


「女子高生に飲ませる酒はないって」


「響(きょう)ちゃんのケチ」


「何とでも言え。望(のぞみ)に怒られんのは俺だぞ? 望に嫌われるよりマシだ」


「……響ちゃんは、本当にノンちゃんが好きなんだねぇ」


「当たり前」



切れ長の綺麗な瞳を細めて、フッって笑ったマスターである響ちゃんは、あたしの注文を無視して、



「イチゴミルク作ってやる」



水晶みたいに出来あがった、透明で丸い氷をしまうと、押しつけがましく勝手にあたしの飲み物を作り出す。


そんなお子ちゃまみたいな甘いものなんていらないのに。

少しくらい飲ませてくれてもいいのに。

今時、高校生だってお酒くらい飲んでるもん。

そんな "常識" を知らない響ちゃんは、ぷくっと頬を膨らませるあたしを無視して、せっせとイチゴのヘタを取っている。

もっとも、高校生もお酒を飲むっていう "非常識" よりも、断然必要な一般的常識そのものを知らない響ちゃんは、

未成年だからって理由でお酒を飲ませないんじゃない。

法律よりも、ノンちゃんの考えが第一優先。

処罰されるよりも、ノンちゃんに嫌われることを恐れている。

だから、あたしがあと3年経って大人になったとしても……。

ノンちゃんがダメと言ったら、きっと響ちゃんはお酒を飲ませてくれないと思う。

それだけ、響ちゃんは奥さんであるノンちゃんを愛してる。

それも仕方ないと思う。

高校生のあたしから見ても、ノンちゃんは大人なのに本当に綺麗で可愛らしい。
< 2 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop