その笑顔が見たい


「翔ちん、今日は葉月ちゃんはいないの?」


桜木には葉月とのことは言ってあった。
「そこんとこ、詳しく」と言われていて飲みに連れ出されたからだ。

しかし、もう隠す必要もないし、隠すつもりもない。
桜木にも口止めはしなかった。
葉月とずっと歩んでいく人生は、俺の頭の中にちゃんと描かれていたのだから。
だから宮崎たちがそばにいても構わずに話を続けた。


「ああ、今日は派遣会社の方にいるよ」


「わー、ちゃんと予定を把握しているくらいラブラブなんだね」


今では桜木の冷やかしも心地よい。


「まあな」


だから自然と出た返事に桜木の動きが止まった。


「わ!」


「なんだよ」


「デレデレじゃん」


「うるせぇ、デレデレで悪いか」


「…翔ちん、キャラ変わった。クールだったのに、甘すぎる」


「…あのなー」


この会話を聞かれると気持ち悪いと思われるだろうなと思いながら、桜木とのやりとりを隣で聞いている二人をチラッと見ると、二人はまったく違う表情をしていた。


桜木のアシスタントは「野村さん、幸せそう」と笑っている。
宮崎はというと…口元は笑ってはいるが、目が笑っていない。不機嫌とは違う。何か違和感がある。

桜木は「翔ちんに彼女ができて無理してるんじゃない」というが、それとも違う気がする。
俺に彼女らしい存在がいることは、前にもあったんだから。
時折見せる宮崎の表情は気になったが、仕事に支障が出ないならとそのままにして置いた。



< 120 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop