添い寝は日替わり交代制!?

「はぁ。昨日のうちに全てを決めておいて欲しかったです。
 それに全て話しておいて欲しかったのですが、仕方ありません。
 これが私の一連の過ごし方です。」

 渡された紙には朝6時の起床から始まって、分刻みで予定が書き込まれていた。
 そしてその表によれば7時10分の今はコーヒーの時間だ。

 予定表通り…………。

「これでも少なめに書いたつもりです。
 中島さんに強要するつもりもありません。
 ただ私はこの生活をしますから、分かっていて欲しいだけです。」

 分かっていて欲しい……。

 たぶん邪魔するなってことだよね。
 私も佐々木課長の邪魔はしたくない。
 できれば迷惑もかけたくないし。

「本当は休みの予定表も書きたかったのですが………。」

 そう言われて予定表を見ると会社へ行く日のスケジュールだ。

 8時出社になっている。
 8時30分が始業時間の職場に8時に行くのが佐々木課長らしい……。

 感心していると、佐々木課長は何か本を手にして心春に渡した。

 これは………。

「見覚えがありますか?
 これはある少女にもらった本です。」

 それはハードカバーの本で『モモ』と書かれていた。

「これは私が28歳の時に高校生の子にもらいました。
 当時は時間がいくらあっても足りなくて日々をあくせく過ごしていた気がします。」

『モモ』それは時間どろぼうと不思議な女の子の話。
 ドイツの児童書らしいが、大人でも感銘を受ける素晴らしい本だ。

「きっと見知らぬ私を見た高校生の少女が時間よりももっと大切なものがあると伝えたくて私にこの本を渡してくれたのだと思います。」

 衝撃を受けている心春に佐々木課長は続けた。

「高校生の中島さんが28歳の私に渡してくれたものです。」

 高校生の頃に好きだった本。

 時間よりも大切なことがあると素直に思えた学生時代。
 その頃の自分から見た大人は時間に追われている姿がもったいないと思えた。

 だからって大人のしかも佐々木課長に本を渡すなんて、高校生の時の自分は何を勘違いしていたんだろう。

 昔の自分の行動に恥ずかしくなる。

「中島さんに本をもらったことで、考え方を改めたのですが、予定通りに行動できないと苦痛なのはどうしても変えられませんでした。
 私の中で『モモ』は中島さんなのです。
 ですので………。」

「ちょ、ちょっと待ってください。
『モモ』ってそんな!」

『モモ』はみんなの話を聞いてあげて『モモ』と過ごすことでみんなに安らぎを与える不思議な少女。

 私がその『モモ』!?

「これは失礼なことを言いましたか?
 私にとっては中島さんといると安らげるという褒め言葉のつもりだったのですが。」

「………!?」

 顔が赤くなるのが分かる。

 佐々木課長は酔ってないはず!
 なのに、どうしてこんな話を!!

「その時に私は空気なんですって話してくれましたよ。」

 あぁ。話したかもしれない。
 微かな記憶が蘇る。

 駅で見かけた疲れていたサラリーマン。
 見ていられなくて本を渡した。

 俯いていた顔が上がったその顔はものすごくかっこよくて恥ずかしかったことまで思い出した。

「高校生かぁ。
 悩み事がなくて良さそうですね。」

 そう言われてカチンと来て、話したんだ。
 自分が空気みたいで嫌だって。
 高校生だって悩みがあるんですって。

「思い出していただけましたか?
 私はその時に助けていただきました。
 だから中島さんが困っている時は助けて差し上げたいのです。」

 だから住まないかって言ってくれたのかな。

 助けたって私はお節介で本を渡しただけなのに……。
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