新宿ゴールデン街に潜む悪魔

爆弾

「殆どが軽犯罪ですよ。でもこれだけの数を重ねたとなると刑罰はどれくらいになるんでしょうね?」

「数が数やからなー。それに空巣は軽犯罪ちゃうやろ。何も取ってないにしてもや」

「まー。ヒビちゃんのことだから捕まりはしないと思うけどね。手錠かけられて連行される姿が想像できない」

香が両腕を前にして手錠をかけられたマイムをする。

「もっとほしいわ。ヒビちゃんの武勇伝は聞いとって飽きへん。俺もやりたくなってきたな」

「私も。ヒビちゃんはなんだかんだで犯罪を楽しんでる。だから聞いてて心地よいんだと思う」




深夜0時、ロンソンで響がラフロイグを飲んでいると一組の派手な服を着た男女が入って来た。シルバーのリングにネックレス、カラフルなヴィトンのバッグ。
チャラチャラしているという表現がよく似合う。男のウォレットチェーンにはフェラーリのロゴが入った鍵が付いていた。

「いらっしゃい!二人ともおしゃれだねー!どっかの大富豪かなんか?」

いつものハイテンションでマスターの吉田が話しかけたが、二人ともスカした顔をして、外国人のやる「わけがわからない」といったポーズをとった。
吉田はそれで黙ってしまった。

「マティーニある?」

女が言う。新宿ゴールデン街にマティーニのようなシェイカーを振る酒はない。

「マティーニはないですねー」

吉田が言うと

「じゃあシャンパンは?」

と、女。

「すいません、ないですねー」

「使えねーなー。じゃあこの店で一番高いウィスキー出してくれよ」

男は最高に高飛車な態度をとる。
吉田はウイスキーの響をロックグラスに入れ二人に出す。

そこから二人は響ばかりハイピッチで飲みまくり、ろくでもない会話ばかりしている。ゴールデン街を無法地帯とでも思っているのか。

「オランダで大麻やったらさー、マジでキマっちゃってさー。やっぱ大麻も質だよなー質」

「マジでー?私もやりたいー!この前やったの全然効かなかったしー。マジ死ねって感じー。あ、今日車だよね?送ってってよ」

「いいよ」

「やりぃ!飲酒とかかんけーないっしょ」

「かんけーねーよ!俺の運転舐めんなって!朝まで飲むぞー」

「最悪の客を入れてしまった」という吉田の顔を見て、この二人に鉄槌を。響はそう思った。
朝まで飲む、といったか。まだかなり時間はある。

響はお会計を済ませ、ドンキホーテで白いつばの大きい帽子を買って、新宿の漫画喫茶に行った。
そして

「今日新宿でフェラーリを爆破します」

と、書き込んだ。

ゴールデン街付近でパーキングを探す。あった。雑誌でしか見たことがないがフェラーリF50だ。
あんな糞みたいな人間がどうしてこんな高級車に乗っているのか。

響はフェラーリの、前後左右に水を少し入れた2リットルのペットボトルを置く。そこに次々とドライアイスを入れていく。

蓋をして、その場を離れる。

30秒後

「パーン!」

という破裂音が4回連続で鳴り響いた。

フェラーリの4箇所が凹んだり塗装が剥げたりしている。

ロンソンに戻ると吉田が悲壮感漂う顔で項垂れていた。

「あいつらコンビニ行くとか言って逃げやがった」

「大丈夫。あいつらのフェラーリ小型爆弾で破壊してきたから。さっきの音はそれですよ。今日の飲み代より確実に修理代がかかる」

そう言った後

「響のショット、10杯。マスターも一緒に飲みましょうよ」

と響。
吉田の顔に笑顔が戻った。


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