新宿ゴールデン街に潜む悪魔

決戦

響と村岡は作業服に着替え、例の手段で荻野の家に忍び込んだ。
ただひたすら帰りを待つ。香は危険なので置いてきた。

以前割ったガラスは修復されていた。

「また割っちゃって悪いね」

響はそう呟く。

「そろそろ帰ってくるで。GPSがそーゆーとる」
村岡のスマホを見るとターゲットがこちらに進んでくるのが分かる。なんて便利な機能だ。

響はユニットバスに、村岡はクローゼットに身を潜める。帰ってきた瞬間二人で襲いかかろうという算段だ。

カギを開ける音がする。

帰ってきた。

荻野が部屋の中心辺りまで来て大きな鞄を置いた瞬間二人は飛び出した。

響が荻野の顔面を殴る。が、あらかじめそうされることを知っていたかのようにひらりと避けられた。

荻野の後ろ回し蹴りが響の腹に決まる。重く鋭い蹴りだ。柔術をやっていたとは聞いていたが打撃も一級品なのか。響が膝をつく。

「いい腹筋だな。大概のやつはこれでノックアウトだが」

村岡が掴みかかる。首をロックして払い腰を決めようとする。しかし荻野はそれをこらえ、逆に裏投げで村岡を投げた。フローリングに叩きつけられる。

「二段か三段かな?でも柔道はあまり実戦的ではない。袖がないからな」

響の右ハイキックからのボディーブロー。どちらも上手くブロックされる。逆にこめかみに右フックをくらう。これも強烈だ。響の意識が飛びそうになる。立ってられない。

強すぎる。これが荻野という男か。空手と柔道の有段者二人相手にここまで戦えるのか。

「甘いんだよ。その程度で俺に勝とうなんて100年はえー。それだろ?GPS。分かってたよ。ただ俺は分かった上でお前らを泳がせてただけた。恐らくこの前の女の仲間だな」

ここで荻野は何かに躓いた。あらかじめくるぶし位の高さに張っておいたピアノ線だ。

今だ!
村岡はタックルを決める。倒れた。馬乗りになる。

「ちっ!なんだこれ?小細工しやがって」

「言いたいことはそれだけかいや?」

村岡は肩固めに入ろうとする。すると村岡の首に二本の足が絡み付く。下からの三角絞めだ。村岡の頸動脈を圧迫する。みるみる顔が真っ赤になってくる。息ができない。なんという戦闘力だ。村岡は絶望的な気分になった。

気絶してしまう。もうだめだ。

そう思った瞬間

「チュン!」という音がした。

荻野が膝足を抱えてのたうち回る。

そこには荻野の銃を持った香が立っていた。サイレンサーがついているのだろう。音はほとんどしない。

「腕痛いよ。こんなに衝撃あるんだね」
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