新宿ゴールデン街に潜む悪魔

結末

村岡が、荻野を栃木の山に捨ててきた3日後、新宿ゴールデン街の片隅にあるバー「ジッポ」に響、村岡、香が集まった。
テレビでは荻野が大阪での殺傷事件の犯人として捕まったとのニュースをやっている。

「連絡手段がなかったからあいつのボスも動かれへんかったんかもな」

「そうですね。揉み消し様がない」

「で、ヒビちゃんは今どういう気持ちや?」

「…殺したい。ずっとそう思っていました。でもここまで派手に懲らしめることができて、警察にもちゃんと捕まって、なんていうか、爽快な気分です」

「思いっきり顔面殴ったしね!」

「すっきりしたよ」

「香なんか2発も銃撃ったやないか。捕まったら罪重いぞ」

「捕まらないから大丈夫。大体あばら折られてんだから正当防衛だよ」

「そういうのを過剰防衛ゆーんや」

「あはは!そうだね。あ、そうだ。今回の記事来週の週刊紙に出るから。私を脅したこととかも全部」

「俺らの存在書いてもーたらヤバイんちゃうか?」

「そこは上手く伏せてもらうよう頼んだよ。凄く文章の上手いライターさんなんだ」

響は笑みをこぼし

「それは楽しみだな。母さんの仏壇に飾ろう」

と言った。

「お母さんもこれで報われたやろ。まー、なくなつた命は帰ってけーへんけど」

暫くの沈黙。


黙祷のように長い沈黙。




それぞれが色んな思いを馳せている。




響が沈黙を破った。

「二人で俺の似顔絵描いてもらえませんか?」

「なんや急に」

「いいよ!楽しそう!」

「俺は絵は苦手やで」

二人は似顔絵を描いた。
響はその二枚を見て笑った。

「やっぱり。顔のパーツが似てない」

「ほんまやな。似てるのはメイクと髭と帽子だけや」

「これだけ特徴があると、肝心の目鼻立ちに目がいかなかなるんです」

「ほんまやな。じゃー悪さして見られたとしても似顔絵での指名手配はできへんな」

「そうです。銀行強盗が顔にガムテープを貼るのと一緒です。見た人たちは『顔にガムテープを貼った人』と認識する」

「目鼻立ちから注意を逸らすんか。それは名案やな」

「まあ俺の場合は逆で犯行を行うときは素顔なんですけどね」

「犯行かー」

香が懐かしそうな顔をする。

「またやりたいなー。いい人が誰も傷付かない犯行」

「せやな。今回みたいなんは勘弁やけど」

「50回で足を洗うって決めてたんです。もうやらない」

「ほんまかー?中毒なってんちゃうかー?犯罪中毒」

「止められるかな?そこは保留ってことで」

皆が笑う。


響は1枚の写メを見せる。

「おお!すごいやん」

「綺麗!」



そこには壁一面に掛けられた、色とりどりのつばの大きな帽子が写っていた。



その様子はまるで虹のようだった。






50回も犯行を起こした男は今日も涼しい顔でラフロイグを飲む。



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