新宿ゴールデン街に潜む悪魔

下見

響、村岡、香の3人は朝の北赤羽の街をを闊歩していた。
これから万引きする店を探すのだ。

響が提案した。
万引きに入る店は、

①金輪際こちらが利用する可能性がないこと。
②比較的利用客が少なく、特に暇な時間帯は店員が一人で回している店であること。
③そして、何より店員の感じが悪いこと。

この3点。

そういう店を、歩いてひたすら、しらみ潰しに探す。
都心よりは人が少ないと予想して北赤羽を選んだが、なかなか見つからない。

人口の少ない街はコンビニも少ない。その分数少ないコンビニにみんな来るのだ。
殆どの店が新宿とそう変わらない混みようだった。

ある店は3人の店員が働いていた。却下。

ある店の店員はこちらが入るなり

「いらっしゃいませ、おはようございます!」

と、満面の笑みを見せ深々とお辞儀をした。とても感じがいい。普通なら通いたいところだ。すなわち却下。

12軒のコンビニを回った時だった。自動ドアがくもった、商品が普通の店とは比べ物にならないほど乱雑に置かれた店を発見した。大手チェーン展開している店なのにである

「なんだこりゃ。どう思う?村さん」

香は村岡に聞いた。

「いやー、かなり適当やなこれ。ほんであいつ、挨拶もせーへんわ」

3人が店内に入った時、暇そうな青い髪をした店員はちょうどあくびをしていた。売れないビジュアル系バンドだろうか。こちらには一瞥もくれない。

「決まりだな。あいつが困ると俺は嬉しい」

響は落ち着いた声で言った。

「今やる?ねーヒビちゃん。今やったら?どうせあいつ見てないよ」

響が首を横に振る。

「いや。犯行予告を出してからだ」

「あ。そうだったね。しょーもないことを本格的にやるのが醍醐味。そうだったよね」

逸る気持ちを押さえる香。
響は

「香、なんか買い物してきてくれるか。なんでもいい」

「あ、わかったー」

香は、飲料コーナーに行き缶コーヒーを3本持ってレジに向かった。

そこで香は驚いた。なんと青い髪の店員は右耳にイヤホンをつけていたのだ。コードの先にはiPodが。

「あ、しゃーせー」

いらっしゃいませのことだろう。青髪はめんどくさそうにノロノロとレジを打つ。

「346円でーす」

香は苛立ったが、数日後こいつから万引きしてやると考えると楽しくなってきた。

350円出す。すると青髪はお釣りをえらく高い位置から香の掌におとした。

「4円のお返しでごさいまさーした」

ございますとありがとうございましたをくっつけて略して言った!

店員の、あまりのダメさ加減に村岡は笑いを堪える。

なぜか、響はその店の電話番号を控えている。責任者にクレームでも言うのだろうか。
そして

「帰ろう。この店は燃やしてもいいな」

と言った。

3人は香が買った缶コーヒーを飲みながら店を後にした。



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