新宿ゴールデン街に潜む悪魔

漫画喫茶

二人と別れてからすぐ響は、大手チェーン店の漫画喫茶に行く。北赤羽の入ったことがない店。
つけ髭をつけてない状態で、つばの大きい帽子に長い髪を束ねて入れて、もちろんひび割れメイクも施していない。
河野匠(こうのたくみ)と書かれた会員証をフロントで見せる。

バイトは何の疑いもなく

「ご利用時間は?」

と聞く。
響は

「30分で」

と答える。



4年前、つまり響が新宿ゴールデン街にジッポを開店させてから1ヶ月ほどした頃、村岡の紹介で珍しい客が来店した。

やたらと漫画に詳しかったので、その話で盛り上がる。
往年の格闘技漫画や、ロボット漫画の話をしていると驚くほど早く時間が経った。
あまりに詳しいなと思ったら、彼は大手漫画喫茶の店長をしていると言う。

いい人を連れてきてくれた。

響には目的があった。漫画の話がしたいだけじゃない。

「あのー、自分とは別の名前で会員証作ってもらえませんか?本名だと『こいつこんなエロ動画見てるんだ』とか店員に思われるじゃないですか。そーいうのが嫌で。個人情報も書くし」

「偽造しろっていうことですか?」

「すみません。平たく言うとそうですね。今日の飲み代ただにしますから」

「え?ほんとにー?じゃあ作ってあげますよ。絶対内緒ですよ」

普段冷静沈着な響が小さくガッツポーズをする。

しらふに戻られても困るので、しこたま飲ませてからすぐに彼のやっている新宿の漫画喫茶に移動する。

そして。偽の名前、住所、電話番号で会員証を作ってもらったのだった。



フラットシートの個室に入った響は、大手チェーンのコンビニのホームページを検索する。
そして、メールを送る。

「明日、北赤羽の店舗で、何かを万引きさせていただきます」

送信をクリック。

これで本部に届くことだろう。そして馬鹿馬鹿しいとスルーされるのだろう。











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