たとえこの身が焼かれてもお前を愛す
ズボンをはき終えたところで、やっとフィーアは視線をエルンストに戻した。

内心ホッとし、大きくため息をつきたい気分だった。

しかし、本人の前でそうするわけにもいかず、エルンストの背後に回ると、肩にシャツをかけ、エルンストが自分で袖を通している間に前に戻り今度はボタンをしめる。


フィーアも宮廷にいたから、こんな時の侍女の仕事は大体分かっている。

自分はやってもらう立場だったが。


エルンストの前に立つとフィーアより頭ひとつ彼の背は高かった。


ボタンをしめながら胸に大きな傷があるのに気づき、フィーアは思わず手を止めてしう。

見るからに痛々しい。


「ああ、これか。先のシュタインベルグとの戦いで負った傷だ」


カールリンゲン国とシュタインベルグ国との闘いはかなり激しかったとフィーアも聞いたことがある。


「ご主人様も参加されていたんですね」


「ああ」


この戦いでエルンストの父親は命を落としている。

悪いことを聞いてしまったかしら?

フィーアは不安気にエルンストの表情をうかがった。


そんなフィーアを気にすることなく、エルンストは意外な事を言いだした。


「やはりコンラートよりいいな」


「....?何がでございますか?」ボタンを全て止め終わるとフィーアは水の入ったトレーをエルンストの前に持ってくる。
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