彼と私の優先順位
上手く歯車が回らないときは回らないもので。

タイミングが合わないときは全く合わない。



新しい案件にとりかかっている慧は多忙なようで、なかなか会えずにいた。

帰りも遅い日が続いているらしく、電話することを躊躇う自分がいた。



その代わり。

元々業務上、不動産部に足を運ぶことが多かったせいもあって、溝口さんにはよく会うようになった。

溝口さんはあの日の強い口調が嘘のように柔らかい物腰だけれど、いつも目は笑っていなかった。

悪いことをしているわけではないのに、溝口さんと顔を合わせる度、気分が重くなった。


しかも。


千恵ちゃんが話していたように、溝口さんと慧が付き合っているのではないかという噂が日に日に耳に入るようになった。



元々私と慧が今、付き合っていることを社内で知っているのは千恵ちゃん、巴ちゃん、溝口さん、柘植くんのみで。

柘植くんには巴ちゃんがキツく口止めをしてくれていた。

そのせいで社内の人間はその噂を信じているようだった。



溝口さんは可愛らしく、愛想もよくて私の支店の皆からも好かれていた。

……千恵ちゃんを除いて。

二人はよく一緒に出かけている、食事をしている、といった噂が変わることなく、まことしやかに流れていた。


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