彼と私の優先順位
「……溝口さんのことなんだけど」



私が切り出した瞬間。

慧の表情が一気に険しくなった。



「……真理に何か言われた?」

頭の回転の早い慧は私が聞きたいことをすぐに理解したようだった。

自分から言い出したことだけれど、すぐに返事をできずにいたら。



「……結奈?」

慧がテーブルの上に置いた私の手をギュッと握る。

緊張で、私の手は冷たく強張っていた。



「……溝口さん、ずっと慧を見てきたって。
自分の方がずっと慧を知ってるって……」

溝口さんは慧を好きなんだよね、とハッキリ口にすることが躊躇われた。

溝口さんがまだ、慧に告白していないとしたら。

私が勝手に気持ちを伝えるべきではない気がしたから。



何よりも。



溝口さんの気持ちを知ってほしくない自分がいた。

慧が知って。

私から離れていってしまったら、と思うと恐かった。



だから敢えて、曖昧に言葉を濁した。

慧はハーッと大きな溜め息を吐いて、空いている方の手で前髪をクシャリ、とした。



「……ごめん、結奈。
嫌な思い、させたよな。
真理にはきちんと断っているんだけど……」



その一言が。

私の胸に痛いくらいに突き刺さった。

そして。

その一言で。

わかってしまった。

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