彼と私の優先順位
「ホラ、結奈。
メリーゴーランド、行かないの?」

私の手を、柔らかな笑顔でとる慧。

大きな温かい手の平に私の手が包まれて。

ドクン、と心臓が大きな音をたてる。



……こんなに近くで慧を見つめることはきっと最後。

「今日、晴れて良かったなぁ」

遊園地内を呑気に見渡しながら、慧が言う。

……慧は私の決意をまだ知らない。



桜が咲き始めた四月初旬。

ふわりと春の暖かい風に運ばれて、桜の淡い香りが何処からともなく漂う。

青い空は雲ひとつなく、四月にしてはとても暖かい。



私達は二週間前に同じ高校を卒業したばかりで。

大学生になる前に高校卒業のお祝いを兼ねて、自宅近くにある遊園地にやって来た。

亜衣と私は中学生の頃からの付き合いだ。

奏くんと慧は小学生からの付き合いで、私は彼らに高校で出会った。



入学当初から奏くんと慧はとても目立っていた。

奏くんは同級生とは思えない、落ち着いた雰囲気を纏っていて、切れ長の鋭い二重の瞳が印象的だった。

慧は言うまでもなく、その抜群の容姿が周囲の目をひいていた。



高校一年生で私達四人は同じクラスになり、紬木結奈、館本慧、という名簿順の席で隣同士になった。

入学当初は、慧の整いすぎた顔立ちに気後れして、隣りの席だというのに、話しかけることも出来ずにいた。

慧もそんな私に、敢えて話しかけようとはしなかった。



一学期が始まって半月程経った日。

入学してから暫く続いていた慌ただしい行事も一段落して。

一限目の現国の授業が始まろうとしている時だった。

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