彼と私の優先順位
「ちょっと、頼まれちゃったんだよね……」

嫌な予感が的中しそうな話の流れ。

困ったような表情を浮かべながら、全然困っていない調子の声。

「館本、悪いなぁ」



教室の戸口から隣りのクラスの飯田くんが慧にのんびりと声をかけた。

「飯田、数学得意だから、この間、俺と奏、教えて貰ってさ。
しかも、必要ないっていう問題集もくれたんだ。
その礼を兼ねて、英語の勉強会することになっててさ」

慧が飯田くんに手を挙げて返事をしながら、私に早口で言う。



……嫌な予感的中。



「紬木さん、ごめんな。
館本、借りていい?」

大声で飯田くんに言われて、私は反射的に頷く。

「良かった、結奈はわかってくれると思った」

頷いた私を見て、慧がニッコリとする。

「……今日の勉強会は前から決まってたの?」

わかっていながらも、小さな声で尋ねる私に。

「イヤ、この辺りの日でって話はしてたけど。
確定はしてなくて、今日昼休みにたまたま飯田に会って言われたんだ」

「……奏くんも?」

「奏は、委員会が終わり次第、参加できたらするって」

「ふうん……」

私は小さく溜め息を吐いて。

強張った表情を無理矢理、再び笑顔に作りかえて、慧に微笑む。

「……わかった。
勉強、頑張ってね。
また、明日ね」

「ああ。
気をつけて帰れよ」

< 32 / 207 >

この作品をシェア

pagetop