あの日から、ずっと……
 定時を少し回り、デスクの上の書類をまとめた。

 仕事をするにつれて、この会社の大きさ分かってくる…… 

 確かに採用の倍率は高かった……


 もしかして、この会社でエリートと言われる泰知は、凄い人なんじゃないだろうか? 

 性格はともかく、泰知には立花さんのような身分のお嬢様がつり合いが取れるのではないだろうか?


 私なんかの事は、ただの幼なじみに過ぎないのかもしれない…… 

 立花さんでなくても、何処かのお嬢様とかと付き合っているのでは?


 私とは、なんだか身分がちがってしまったような…… 

 十三年の月日が 泰知を遠く手の届かない人にしてしまったように思えてくる…



 なんだか泰知の事で頭がいっぱいだ。


 私は、まとめた書類をデスクの引き出しにしまい、鞄を肩にかけオフィスを出た。

 社員通用口を出ると、壁に寄り掛かるように井口さんが立っていた。


「宇佐美、メシでも行かないか?」

「えっ…… 今夜はちょっと……」

「予定でもあった?」

「そうじゃないんですけど…… おばあちゃんが夕食の支度をして待っているから……」


「そうか……」

 井口さんは、少しほっとしたように笑みを見せた。


「すみません……」

 私は頭を下げ、井口さんの横を通り過ぎようとした。


「じゃあ、明日は?」

 私の腕を井口さんが、ガシッと掴んだ……


「えっ」

 私はどうしていいか分からず、下を向いてしまった。


「そんなに深く考えなくていいからさ。たまには、吉川主任以外の男も見てみなよ」

 井口さんは、私の顔を覗きこむと、返事も聞かずに行ってしまった。


 井口さんが悪い人で無い事は分かっているのだが…… 

 何故かあまり気乗りがしない……
< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop