ヒトツバタゴ

〜動き出す時は綿密に〜



大学を卒業する頃にはさつきは恋愛することを諦めたのか付き合うだの別れただの聞かなくなった



社会人になり、新入社員研修を終えるとさつきと共に営業部へ配属され、チームが違えど社内にいる時は目に入る距離で他の男が近寄らないように出勤時も昼休みもさつきの隣は譲らない




なのに




唯一、俺が隣にいられないことが多い帰宅時に厄介な男に捕まっていた




さつきが好きそうなシチュエーションも仕込まれていたかもしれないな



幸い連絡先は交換していないようだし、さつきにコンタクトを取るならそろそろ更新となる契約の話の電話の時だろう


それなら俺が不在の時でもさつきから俺に電話があった旨の連絡がくる





息を一つついて「行ってきます」と立ち上がる



「いってらっしゃい」



さつきの声を背に聞きながらオフィスを出る



ああーこの『いってらっしゃい』を家で聞きたいなぁ








動きは3日後にあった



いつものようにさつきと大也と昼休憩を過ごし、戻ってきて外回りの準備をしている時に鳴った直通の外線電話



来たかもと思いながらも外回りへ立ち上がりかけると「橘でよろしいですか?」とさつきに制される




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