ホタル
追憶


「こら、危ないぞー!」


木に登る私を下から注意する。


「大丈夫大丈…うわぁ!!」


ドスン!



「う…」


あれ、痛くない。


「大丈夫だった?」

「わ!」

すぐ目の前に綺麗な男の子の顔。

「もう…だから危ないって言ったのに」

「ごめんなさい…」


耳元で声がする。

声変わりが終わり、落ち着いた、心地よい低さのテノール。



そこで自分がお姫様抱っこをされていることに気づく。


「ほ…本当にごめんなさい!
私よりも痛かったでしょ?」

しかも私重いし…


「全く問題ないよ。これでも男だからね。それよりも…」


私をそっと下ろして手を取り、跪く。


「お怪我はございませんか、僕の姫君?」


「……っ!!」


きっと今私の顔は真っ赤だ。


顔を見られたくなくてふいっと逸らす。


「ふふっ」


とても上品に笑う彼は本当の王子様みたいだ。


白い肌、切れ長の涼しげな目元、サラサラの黒髪。笑うとくしゃっと顔を崩す。


「こっち向いてよ、姫様?」


「いい加減にしてよ…恥ずかしい…」


私が照れているのを見て満足そうに笑う。
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