明日、君を好きになる
今思えば、その時、なぜそんなことを考えたのか、不思議だった。

別に特別な意味があるわけでも、ましてや彼の気を引こうとか、そういった気持ちは一切なかった。

ただ、あまりにも、疲れた様子のお客さまを前に、お店の店員として何か出来ないか?と思っただけ。

トレイを一旦置くと、店の奥にあった自分の鞄から、おやつにと買ってあった、銀紙に包まれたアーモンド入りのチョコレートを4~5個取り出すと、バターやホイップクリームなどを添える時に入れる、小さなガラスの小鉢に入れ、提供するモーニングセットに添えてみる。

相変わらずうなだれたまま瞳を閉じている彼の元に運ぶと、『お待たせしました』と、静かに声をかけた。

ゆっくりした動きで、身体を起こした彼の、空いたカウンターテーブルの上に、トレイを置く。

『あぁ…ありがとう…ん?これってモーニングだよね?』

彼は、毎日食べているモーニングセットに、通常には無い見慣れぬ小鉢を発見して、早速質問される。

『え…っと、その小鉢は、サービスです。良かったら、どうぞ召し上がって下さい』
『サービス…ね』

彼は、その小さな包み紙を一つ持ち上げる。

我ながら、30過ぎ(ていると思われる)の男性に、いささか子供じみたサービスだったかと、少々恥ずかしくなった。
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