私の二人の神様へ
そんな各々くだらない小競り合いをしていると、私のカバンの中から突如、海辺を白馬で走るお殿様のテーマ曲が鳴り出した。
この着信音は榊田君のスマホ。
私が面白がって設定したら、意外とお気に召したらしくてそのままにしている。
榊田君のスマホをカバンから取り出し、手渡そうとする手をぴたり止めた。
「仁くんからだよ!何で榊田君に!?」
私は勢い良く榊田君を見るが、彼は知らん顔で私から奪い取り、耳に当てた。
『何の用だ?俺は忙しい』
開口一番から普段より低い声でけん制している。
寝ていたくせに良く言う。
榊田君のスマホに耳を寄せようとすると、野良犬のごとく追い払われた。
自分のスマホを見ると、仁くんからの着信履歴。
マナーモードにしていたから気づかなかった。
私が出なくて、榊田君に電話したのだろう。
『緊急事態?何だ、それは?俺が水野に伝えておく』
緊急事態?
榊田君に電話してまで私と連絡を取ろうとするなんて。
私は榊田君から無理やり奪い取った。
「おい!俺のだぞ」
『仁くん。私!どうしたの?緊急事態って!?』
榊田君を無視して、一気にまくし立てた。
『ああ、緊急事態だ』
そんなことを言いながらも、彼の声は優しく、少し笑いも含まれている。
『小春の声が聞きたくて、どうしようもなくなった。な?緊急事態だろ?』
もう!
私をからかって楽しんでる。
とか何とか言いつつ、私は口の綻びを抑えることはできなかった。
当然だ。
『それなら私はいつでも緊急事態だよ。仁くんの声をいつだって聞いていたいもん』
電話越しの声でさえ、目が潤んでしまうほど嬉しい。
『俺には信じられない。ところで、今、平気か?』
『うん。ちょっと待って』
私はみんなに五分だけ、と謝りながら部屋のドアを開けた。