イケメン兄の甘い毒にやられてます

本気で、アナタガスキダカラ

「…夕陽、どうして逃げた?」
「…ごめんなさい」

少し息を切らせながら、圭吾が言う。

泣いた顔を見られたくない夕陽は、俯いて謝る。

そんな夕陽の顔を両手で持つと、自分の方に向けさせる。そして初めて夕陽が泣いたことを知った圭吾は、一瞬言葉を詰まらせた。

「…圭吾さん、今日の食事キャンセルしてもいいですか?」

夕陽の切実なお願いに困惑する圭吾。

「…なぜ?」
「…ちょっと用事が出来てしまって」

今は二人きりでいることが出来そうにない夕陽は、ありもしない事を言う。

「…夕陽、さっき」
「…え?」

「…いや、何でもない。…用事があるなら仕方ないね。一人で行ける?送っていこうか?」

「…いいえ、一人で行けます。圭吾さん」
「…ん?」

「…ぇっと、何でもないです」

そう言うと、夕陽は足早にその場を後にした。

圭吾は、夕陽が見えなくなるまで、夕陽の背中を見つめていた。

引き留めるべきだったのか否か、いなくなってもしばらく自問自答していた。

…引き留めるべきだった。

圭吾は自宅で自己嫌悪に陥っていた。

午後9時をまわっても、夕陽が帰ってこない。

高校2年生。もう子供じゃない。

いや、まだまだ子供だ。

窓から暗くなった外を眺めると、外はどしゃ降り。

心配でたまらない圭吾は、夕陽の携帯をならした。

「…夕陽?!イマドコにいる?」

電話に出た夕陽だったが、それに答えることはない。

「…夕陽?もう遅い、早く帰っておいで」
「…やです」

「…え?」

雨音で聞こえずらい。

「…夕陽?」
「…嫌です。帰りません」

「…圭吾さん、私は圭吾さんのことが大好きです」
「…夕陽?!」

意味がわからないまま、電話は切られてしまった。
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