冬の恋、夏の愛
「クリスマスは、一緒に過ごしてくれますか?」

駅までの帰り道。羽島さんがまっすぐ前を向いたまま、ポツリとつぶやいた。クリスマスは、羽島さんの誕生日であり、ふたりが初めて出会った日。ふたりにとっては大切な日。

「オレなんかで、良ければ」

うれしくて、心の中がお祭り騒ぎでも、ボソッとつぶやくと、唇をキュッとしめた。

「良かった。ありがとうございます」

オレのぶっきらぼうな返事にも、羽島さんはよろこんでくれているらしい。チラリと視線を向けると、うれしそうな横顔が見えて、つい頬が緩みそうになるのをこらえた。

桜木町駅から電車に乗り込むと、ピロリンピロリンと、警告音のような音がなった。これは電車が遅延していることを知らせる音で、車内の画面に目をやった。

「どうしよう……電車、人身事故で止まっている……」

羽島さんが画面を指差しながらつぶやいた。いつも横浜駅で降りて乗り換える電車が、どうやら動いていないらしい。

「どれくらいで運転再開するんかなぁ……」

腕時計に目をやり、小さなため息をついた。不幸中の幸い、明日は休み。でも寒い中、いつ動くかわからない電車の、運転再開を待つだなんて。

「うち、来る?」

横浜駅から地元まで三十分弱。羽島さんに寒い思いをさせるくらいなら、と、思いつきで言った。

「えっ! でもっ!」

羽島さんは頬を真っ赤にさせて、動揺していた。下心はないのに、そう思われてしまったらしい。

「オレは、涼介のところに行くから。羽島さんは、うちに泊まって?」

これで、問題はないだろう。今は大丈夫でも、ふたりっきりになれば、理性を保てるかどうかわからない。

「……いいんですか?」

「ああ」

「ありがとうございます。助かります」


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