冬の恋、夏の愛

それから、一ヶ月が過ぎた。ふたりの関係は、手を握るより先に進んではいなかった。いまどき高校生、いや、中学生でもこんな純なカップル、いないと思う。

季節は少しずつ、春への支度を始めていた。それなのに、寒がりなオレは、まだグルグルとマフラーを巻いたままだ。

「寿彦さーん」

今日も明るい笑顔を見せながら、莉乃ちゃんが手を振った。ポケットに手を突っ込んだまま、軽く会釈をした。

「今日は、なにする?」

待ち合わせはいつも、桜木町。たまにはどこか違う場所へ行くのもいいけれど、オレが行きたい場所は横浜スタジアムくらいしか思いつかない。

「なにか買いに行く」

「なにか……って、なに?」

そう質問しながら、オレのポケットに手を突っ込んでくるから、仕方なく片方の手を出した。

いや。仕方なく……でもないけれど。

「それは、莉乃ちゃんが決めること」

「私? いや、別に欲しいものは」

なんだか、おかしなことを言うなぁ。莉乃ちゃんは、そんな感じで首をかしげた。

「バレンタインのお返し」

「ああ!」

莉乃ちゃん。そんなに驚いた顔、しないでよ。いくら鈍感なオレでも、ホワイトデーにはお返しをしないといけないことくらい、知っている。

「お返し……かぁ。ほな、観覧車に乗りたい!」

ああ。あの大きな観覧車、ね? いろんな意味で高いけれど、高価なおねだりされるよりはずいぶんと安上がりだ。

「わかった」

風はまだ、冷たい。それでも莉乃ちゃんと一緒なら、ほんの少し暖かく感じた。


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