冬の恋、夏の愛

初めてのキスまでは、付き合い始めて三ヶ月を要した。そこから先に進むのも、慎重にならなければ。本気で好きになった人から『身体目当て』だなんて思われたくない。

ところが、困ったことに莉乃ちゃんが、デートのたびにキスをしたがる。まるで『好き』と言わないオレの気持ちを、キスで確かめているかのようだ。

女の子は、キスだけすれば満足、なのだろうが、男はそういうわけにはいかない。

『早くやっちまえ』

男のオレが、悪魔のささやき。そのたびに『早まるな!』と強く言い返して追い払った。

そのわりには、『まさか』に備えてコンドームを常備したりして。

きっと、オレが誘えば莉乃ちゃんは、黙ってうなずいてくれるだろう。でも、やっぱりまだ早い気もして。デートのたびに、天使と悪魔が戦うのだ。

今日は野球の試合があり、莉乃ちゃんが応援に来てくれる。勝てば、行きつけの居酒屋で祝杯をあげるのがお決まりのパターンだから、なんの心配もないのだが。

負けたときが大変だ。オレの地元に来たときは、家に遊びに来たがる。当然といえば当然なのだが、家でふたりっきりになると……。毎回、理性を保つのにかなり神経を使うから、ドッと疲れる。

そのたびに、『今日こそは!』と思うのだけれど、やっぱり安易に莉乃ちゃんに触れるのが怖かった。逃げられそうで、怖かった。振られるくらいなら、このままずっと我慢するほうがマシだ。

……あ、いや。ずっと我慢も辛い。

「寿彦、行くぞ!」

ぼんやりとするオレに、涼介が声をかけてきた。まもなく、プレイボール。野球スイッチをオンにした。

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