冬の恋、夏の愛

バレンタイン当日は、火曜日。なにやらごちそうを作るとはりきっていたから、ひそかに楽しみにしていた。

「おかえりなさい」

笑顔で出迎える莉乃ちゃんがたまらなく愛しくて、ぐっと引き寄せると、耳元で「ただいま」と、ささやいた。

「ごはん、作ってくる!」

莉乃ちゃんは、今日もあわてんぼうだ。そんなに慌てなくてもいいのに。すぐに離れていった莉乃ちゃんを、残念に思った。

「いいにおい」

お腹をさすりながら、ボソッとつぶやくと、ドカッとソファに座って、ネクタイを緩めた。

「帰ってきたら、手洗い! うがい!」

ゆっくりする間もなく、部屋から追い出された。なにか、嫌われるようなことをしたかな? と、気になった。


今日は、手作りのローストビーフを使った、ローストビーフ丼! サラダやスープまである。

「へぇー、すごいね」

丼に盛られたローストビーフを、いろんな角度から眺めながら、つぶやいた。そんなオレを、莉乃ちゃんは笑った。

「いただきます」

さっそく食べてみる。思わず「うまっ」っとうなる。それだけで、莉乃ちゃんは満足そうな笑みを浮かべて、うんうんとうなずいた。

「いただきます」

最初のひと口を、パクリ。

「おいしい!」

ローストビーフ丼を味わいながら、チラチラと莉乃ちゃんをみる。おいしそうに食べながら笑う顔を見るだけで、幸せな気分になれる。

好きな人と食べるごはんほど、おいしくて、幸せな味がするものは、他にない。




< 60 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop