冬の恋、夏の愛
仕事を定時に終えると、涼介の運転で莉乃ちゃんの職場へ向かった。

会いたいような、会いたくないような。今さらながら、緊張してきた。

「何か、食べたい物、ある?」

何も食べたくない。ただ、莉乃ちゃんの隣にいたいだけ……。首をそっと横に振った。

「まぁ、羽島さんの顔を見たら、食欲もわくだろう」

……加茂さんとのこと、単なる誤解ならいいのに。そうしたらオレは、素直に謝るよ。素直に謝るから。

お願い。莉乃ちゃん、そばにいて。

窓の外に視線を送る。車は、オフィス街の道路を走る。莉乃ちゃんの職場は、もうすぐそこだ。

涼介が、オフィスビルの裏手に車を止めた。しばらくすると、涼介の携帯に連絡が入った。

「羽島さんが日報を書き終えたら、すぐ降りてくるって」

その言葉に、居ても立っても居られなくなったオレは、車の外に出た。落ち着かないオレを、ビル風が包み込む。ビルの裏口のドアをみつめていると、人影が見えた。

スーツ姿の加茂さんと、腕を掴まれ、涙目になった莉乃ちゃんの姿……。

これは一体、どういうことだ……?

「加茂さん」

オレの呼びかけに、加茂さんが手を離して、立ち止まった。莉乃ちゃんは、オレと目が合うなり、ポロポロと涙をこぼした。

「莉乃ちゃんに、なにをするつもりですか?」

莉乃ちゃんを、泣かせるなんて……。目の前の事態に、怒りさえ覚えた。

「なにって? これからデートですよ」

ブンブンと首を横に振る、莉乃ちゃん。浮気なんてしていないと確信すると、小さくうなずいた。

「莉乃ちゃんは、大切な女性です。あなたに渡すわけにはいかない」

オレの完全な誤解だった。莉乃ちゃんは、誘われて仕方なく会っていたんだ。きっとそうだ。

「でも、恋愛なんて弱肉強食ですよ? 法に触れるわけでもない。デートくらい、いいじゃないですか?」

「莉乃ちゃんは、オレの彼女です。彼女をたぶらかすような真似、やめていただけませんか?」

だから加茂さんには、はっきりと伝えなくてはならない。莉乃ちゃんは、オレの大切な人だってことを。


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