冷たい雨の降る夜だから
「お姉さぁ、高校の頃までは普通だったじゃん。女子力どこに落っことしてきたの?」

「……」

 答えない私の返事を待つ気は端っから無かったのか、藍はヘアクリップで留めてあった私の髪をほどくと、ざっくりとワックスをつけて頭の上に緩くお団子を作ってくれた。慣れた手つきで髪をまとめていく藍を鏡越しに見ながら、おっきいお団子ってこうやって作るんだ、とちょっと関心していた。

「べつに、バッチリメイクしなくたってさ」

 そう言いながら正面に回ってきた藍の手にはアイシャドーのパレット。

「ちょっとアイシャドー入れて、マスカラつけるだけでいいじゃん」

 藍にされるがままでしばらくして、鏡を見たら、そこには街中で見かけたらちょっと可愛いって思うような、そんな女の子がいた。

「ね?」

 可愛いでしょ?と言う様に藍は私を見た。

「さて、お姉の彼氏さんのお仕事なんでしたっけ?」

「高校の先生」

「だよね? 高校の先生って事はさ、毎日女子高生見てんだよ? 女子高生だよ? お姉より若くて、元気で、女子力全開なんだよ? スカート膝上15センチだよ?
そりゃ、彼氏さんにしてみたらお姉だって12も下だろうけど、肝心の女子力0でどーすんの? あたし、昨日お姉の下着見てガッカリしたよ。下着の女子力すらなくてどうすんの。てか、そんなでどうやって彼氏を落としたの」

 藍の一言一言がグサッと刺さる。下着にがっかりってどういうことよ。そりゃ、そんなに全力勝負の下着は持っていないけど…… いや、全力も何も勝負になりそうな下着は確かに持ってないかも? と残念な事を思いなおす。

「別に、そういうの求めてたら私と付き合わないだろうし」

 言いながらも、やっぱりガッカリといわれたら気になる。まだ先生に下着を見せるなんて関係にはなっていないけれど、やっぱりそのうち、そういうことにもなるだろうし。そこでガッカリされるのは、やっぱり嫌だと思う程度の乙女心は、さすがの私だってまだ持っている。
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