冷たい雨の降る夜だから
「いつから?」

「え?」

「いつから付き合ってたの?!」

「ええと、1月の末から」

 正直に答えながらも、あまりの気まずさに視線を逸らしてしまう。

「そんな前から?! 言ってよ!!」

「そうだよ、言ってくれたらうちらも菊池に巻き込まれなくて済んだじゃん!」

 口々に言うさやかと里美に、私はとにかく謝るしかない。

「は……はい。本当にごめんなさい。それで、土曜日何かあったの?」

 こんなに電話をもらった事なんて今まで無かったから、何か急用でもあったのかちょっと心配になって尋ねると、返ってきた答えは何とも微妙。

「飲んでたの。なんか、成り行きでさ、同期の変なメンバーで。でね、菊池も居てね。翠の事呼べってうるさくて。それで、電話したのさ」

「翠、全然でなくてさ。こっちも酔ってたしムキになってガンガンかけたら……。さっきからうるせぇんだよって…男の人が出た」

「……」

「翠なら寝てるけどなんか用?って…… もうすんごいびっくりしたんだけど」

 そんな話、こっちがびっくりします。とは言えず、何もコメントできずに手元のスマホの着信履歴を見る。確かにたくさんある着信の最後のは電話に出たらしく、矢印のアイコンが一つだけ違う。これだけ電話が鳴ったのなら、うるさくて先生がキレたのは、想像に容易い。

 さっきからうるせぇんだよって…… うん、すっごく言いそう。

 休日の私のスマホなんてほとんど鳴らないのもあって、日曜日はずっとほったらかしていたから、気づいた時には電池が切れていた。多分それで着信があったことを示すアラートは消えてしまったのだろう。携帯の着信履歴なんて普段確認しないから、今まで全然気づいていなかった。

 先生、電話出たなら言ってくれたって良いのに。そう思ったけれど、単に言い忘れただけという気もしなくも無い。だって、一昨日の夜は今思い出しただけでも頬が火照りそう。昨日だって、一日中くっついてたというか、離してもらえなかったのに。全然離してもらえなかった。本当に一日中、先生の腕の中に居させられた。いつもの涼しい顔で、私にあんなことやこんなことして…ホント…あの人酷い。
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